今年度は、1次元非対称排他過程および関係する確率的界面成長模型の揺らぎに関する研究を中心に行った。特に行列式の形に書かれた1次元非対称排他過程の遷移確率を用いる方法を発展させ、以下のような結果を得た(カリフォルニア工科大Borodin氏、ワイエルシュトラス研究所Ferrari氏との共同研究)。 1) 左半分が平坦で右半分が液滴状になるような境界条件のもとでの界面成長の揺らぎについて、特にその性質が変化する原点付近に着目した解析を行った。1点での高さ揺らぎは、平坦部分と液滴部分でそれぞれ、ガウシアン直交アンサンブルおよびガウシアンユニタリアンサンブルと呼ばれるランダム行列の最大固有値の揺らぎと等しい事が知られていることから、境界部分では2つのアンサンブルの転移を記述するアンサンブルの揺らぎと等しいかと予想されたが、実際に計算を行ってみると、それとは別の揺らぎであることを強く示唆する結果を得た。 2)これまでの解析は主として時間変数が連続の場合であったが、それを離散時間に拡張する研究を行った。その結果連続時間の時には見られなかったいくつかの新しい点があることが分かった。また離散時間模型はある極限において連続時間の多核成長模型と呼ばれる界面成長模型を含んでいるが、その揺らぎの相関がBessel関数を用いた新しい積分核を持つフレドホルム行列式で与えられることが分かった。これらの成果は、すでにいくつかの国内および国際会議で発表した。 またランダム行列理論に関連する手法を用いた非対称排他過程の揺らぎの研究についての概説論文も執筆した。
|