今年度は、まずホッピング率が異なる2種類の粒子のある非対称排他過程の性質を調べた。この過程においては、粒子のホッピング率の大きさなどを変えることにより、種々のスケーリング極限を考えることができる。たとえば、遅い粒子が複数ある場合における衝撃波の揺らぎは、有限次元ランダム行列と関係していることがわかった。 次に上述の研究から、Dysonの時間依存ランダム行列の固有値の最大値と、対称性のある時間依存ランダム行列の固有値には関係があることが分かった。これは、よく知られたブラウン運動の最大値と反射壁ブラウン運動の関係を多次元に拡張するものである。 さらにKPZ方程式と呼ばれる界面成長を記述する非線形確率偏微分方程式の漸近的な振る舞いを調べる研究も行った。まず空間離散化した過程の生成作用素のレゾルベントを調べることにより、揺らぎの指数が1/4以上1/2以下であることを証明し、正確な値が1/3と考えられる議論を与えた。また、非対称排他過程の流れに対するTracy-Widomの公式から出発することにより、狭いwedge型初期条件の場合に、1点における高さ分布を具体的に書き下すことができた。結果はフレドホルム行列式の積分という形になり、長時間での展開に適した形をしており、有限時間の補正も計算することができた。
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