本研究の大きな目的の一つは、たとえば統計力学に現れる相分離界面について、それらが境界に近づいたときの挙動を分析するための解析的手法を構築することであり、それは1次元ウィーナー空間の部分集合における発散定理として定式化される。さらに、それらを関数解析的な量として表示し、確率過程論的表示との関係を明確にすることを目標とした。本年は昨年までの研究に続いて、一定の発散定理の公式を解析的に定式化することに成功し、しかもウィーナー空間上の超関数の理論と対応づけることで、確率過程論的な条件付き期待値を用いた表現との同値性を得た。これは従来知られていた公式の直観的描像を厳密に表現できたことを意味する。これらの成果は論文として発表された。これによって従来知られていた確率過程論に基づく表現を完全に無限次元解析的な表現のみで表すことができるようになったのみならず、その公式の成立がマルコフ性のような確率論的性質ではなく、ガウス性という測度が本質的な役割を果たしていることも明快にできた。特にマルコフ性を持たない確率過程に対しですら、たとえば近年記憶を持っ株価モテルなどにも関連して活発に研究されている分数ブラウン運動についても成立することが示されたことは意義深い。一方その研究で得られたヒルベルト空間上の測度に関する知見をもとに、複素ヒルベルト空間上でのガウス測度の性質の研究を経て光量子力学に従う動力学の測度論的解析の研究を行い、スペクトル論的方法によらずに軌道の複雑さを解析することが可能であることも示された。これは従来作用素のスペクトル解析を必要としていたものを、複素ヒルベルト空間上のガウス測度に基づく非線型汎関数に対する無限次元解析によって研究する方法を提示するものであって、新しい手法になることが期待されるものである。
|