研究概要 |
2008年度までに構成したアデール準安定過程のいくつかの領域からの脱出時刻を用いたリーマンのゼータ関数,およびオイラー積表示をもつ一般の複素数値関数の表現式を得た.これはまず,脱出時刻の分布式の形に注目し,目標とする関数に応じて準安定過程の指数を適切に選ぶことによって成し遂げられた.この表現式が、今後アデール上の確率解析の手法を用いて数論的関数を解析するための基礎となる.上で得た複数の表示式を比較することにより,リーマンのゼータ関数に関するいくつかの関数等式を得た.これは従来の関数等式と異なり,複素数とその共役複素数での値や,複素数とその実部での値の間の関係を記述している.こうした関数等式も,関数の解析を進める上で大きな足がかりになると期待できる.さらに,リーマンのゼータ関数の非零領域と密接に関係するチェビシェフ関数が,アデール上の準安定過程の有限整アデールからの脱出時刻の分布を用いて表されることを発見した.このことから,ゼータ関数の非零領域の問題が,アデール上の準安定過程の列における脱出時刻の期待値の漸近挙動として表現できることが分かった.すなわち,ゼータ関数に関する未解決問題がアデール上の確率過程の列に関する命題と同等であることが示されたため,確率解析の手法を応用して数論的命題にアプローチできる可能性が得られた.この同値関係は,確率過程の脱出時刻の期待値という単純な式で与えられるため,具体的な解析ができる見込みは十分にあると考えられる.
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