研究概要 |
乗法的にスペクトルを保存する写像の研究は,これまでσ(S(a)S(b))=σ(ab)を満たす全射Sの特徴づけが行われてきた.一方でσ(S(a)S(b)^*)=σ(ab^*)を満たす全射Sの特徴づけは別の研究として独立に進められてきた.ただし*は複素共役を一般化した概念である対号である.我々はσ(S(a)T(b)=σ(ab)を満たす全射の組(S,T)を考察することにより,これまでの研究を統一的に扱うことに成功した.より正確には,単位的半単純可換Banach環A,Bの間の全射の組S,Tに対して r(S(a)T(b)-1)=r(ab-1)(a,b∈A),S(1)=T(1)=1 が成り立てば,S=Tであり,さらにSは実多元環としてめ同形写像であることを示した.ここでr(・)はスペクトル半径を表す;σ(S(a)S(b))=σ(ab)ならばσS(a)S(b)-1)=σ(ab-1)であり,このことよりr(S(a)S(b)-1)=r(ab-1)であるから,我々のスペクトル半径に関する仮定は既存の条件よりも弱いものである.その後スペクトルの代わりにスペクトル半径を保存する全射の研究が盛んになされるようになった.我々はスペクトル半径のもとでは加法的な写像は,本質的に実多元環としての同形写像であることを示した.この結果は,Rao,Tonev and Toneva及びTonev and Yatesの定理の拡張となっている. 摂動の安定性に関する研究では,二項演算について閉じている抽象的な集合の間の写像を考察し,Banachの不動点定理を用いることにより安定性問題に対する十分条件を与えた.またBanach環の単位元の添加に関して得られたArhippainen and Mullerのノルムに関する評価を詳細に調べることにより,等号成立条件を与えた.
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