研究概要 |
本年の主たる研究成果として,非拡大写像族あるいはそれに準ずる性質をもった写像族に対する共通不動点の近似列を生成する手法に関する一連の結果が挙げられる.今年度の研究では2008年にヒルベルト空間上で定義された非拡大写像族に対する共通不動点近似の手法として提唱された収縮射影法を中心に考察し,空間や係数列,写像族に仮定されている様々な条件を緩和することに成功した. これらの一連の研究では,非拡大写像族を様々な形で一般化した写像族が取り扱われている.例えば,バナッハ空間の空でない閉凸集合上で定義されたrelatively nonexpansive写像と呼ばれる写像の族に対する不動点近似定理なども証明きれており,これは本研究課題で取り扱う均衡問題およびそれに関連の深い変分不等式問題に対して定義されるリゾルベント写像等を例としてもつ.このことから,これらの結果は均衡問題を含む非線形問題の解法の進歩に一定の貢献をするものと考えられる. いずれの結果においても,研究の手法として本研究課題の特徴である集合値解析の手法を用いることで近似点列の強収束性を証明しており,本研究課題の目指す形での研究成果を意図通りに得ることができたという点で評価できる. 昨年度の主な成果として挙げられていた近似点列の弱収束性に関する結果に比較して,近似点列の強収束性は実際の計算機実験等でも扱いやすく,有効にはたらくことが期待される.このことから,収縮射影法に関する計算機実験から得られる,収束速度などの様々な性質に関する考察が今後の課題と言えるであろう.
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