本年度のテーマは、Colombeauの一般関数の理論を用いた不連続な係数を持つ一階線形双曲型方程式に対する初期値問題の一般関数解の研究である。不連続な係数のため、この方程式において超関数の積が現れる。よって、一般に、超関数の空間の枠粗みにおいてこの方程式に意味を与えることはできない。他方、Colombeauの一般関数の空間は、超関数の空間を含む微分多元環であるので、たとえ係数がColombeauの一般関数であったとしても、この方程式の解の概念はColombeauの一般関数の空間の枠組みにおいて意味を成す。これが、不連続な係数を持つ一階線形双曲型方程式の研究にColombeauの一般関数の理論を用いる理由である。 このような方程式の一般関数解の存在と一意性は、既に、Oberguggenbergerによって証明されている。本研究では、Colombeauの一般関数の空間のある部分多元環を導入し、この部分多元環を用いて一般関数解の正則性、特異性の伝播を研究した。特に、ある特定の係数を持つ場合において、初期値の原点における特異性がどのように伝播するかを詳しく考察した。さらに、超関数解が存在する場合において、一般関数解は超関数の情報のレベルでどのように振舞うのかを調べた。
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