研究概要 |
本年度は主に「特定の項にのみ時間遅れをもつ線形微分方程式の零解の漸近安定性」について取り組み,大きな進展があった。そのうち,非対角成分に時間遅れをもつ線形微分方程式に対しては,時間遅れに依存する漸近安定条件と時間遅れに依存しない漸近安定条件を得ることができ,時間遅れの影響を無視した従来の結果を本質的に改善した。また2次元線形差分方程式に対しても同種の問題を考察し,漸近安定条件に関する新しい結果を得た(いずれも投稿準備中)。その他の本年度の研究成果は以下の通りである: (1)1つの時間遅れをもつ2次元線形微分方程式および線形差分方程式の零解が漸近安定であるための必要十分条件を,係数行列の行列式,トレースと時間遅れのパラメータを用いてそれぞれ具体的に与えた。また,関連する時間遅れをもつ微分方程式および差分方程式の漸近安定条件と未解決問題を提示した。 (2)非有界な時間遅れをもつ非線形スカラー微分方程式の零解が大域的吸収的であるための十分条件を導出し,従来の結果を改良かつ一般化することができた。改良点は対象となる微分方程式の非線形性において単調性の仮定を外せたことで,解の大きさをじかに不等式で評価し,すべての解がOに収束することを証明した。 (3)特性方程式の根の分布を詳しく解析することで,1つの時間遅れと2つの定数係数をもつ2次元線形微分方程式の零解が漸近安定であるための必要十分条件を具体的に与えた。その際,従来見逃されていた零解の漸近安定性における時間遅れの影響を完全に解明することができた。
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