本年度と次年度は、複素領域における、原点を特異点とする一般の1階非線型偏微分方程式に対して、その形式的羅級数解が一意的に存在する為の条件を求めること、さらに形式解が発散する場合は、その発散の大きさを表すジュブレイ度の値も精密に求めること、を目標として研究を続けております。 研究対象の方程式は、その線型主要部のなすベクトル場のヤコビ行列の固有値の値に応じて、(i) どの固有値も零でない;(ii) 固有値が全て零;(iii) 零でない固有値と零固有値が混在する;の3タイプに分けることが出来ます。本年度は(i)のタイプの方程式を扱い、「上記の零でない固有値が"ポアンカレ条件"、"非共鳴条件"と呼ばれる2つの条件を満たし、さらに方程式の係数の零点の位数に対してある種の条件が満たされれば、形式解が一意的に存在し、さらにその形式解は収束する」という結果の証明に成功しました。(上の「ある種の」と書かれた条件を明確な形で書き表すことが出来たことが、本年度の研究成果の特に重要な部分です。) 結果の証明は、収束幕級数のなす空間に、あるノルムを導入してバナッハ空間を作り、縮小写像の原理を用いて行いました。この方法は、過去にも線型方程式や半線型方程式に対する同様の研究において、申請者により採用されてきたものですが、本年度の研究では、過去に使用していたノルムが証明に適さず、新しいノルムを探す必要に迫られました。この新しいノルムを見つけられたことも、本年度の研究成果の重要な部分です。 本年度の結果は、2000年に三宅正武氏と白井朗氏によって優級数法を用いて証明された結果と論理的に同値であり、その意味で、彼らの結果の別証明を与えたことにもなります。 当初は、(ii)のタイプの方程式も扱う予定でしたが、時間の都合上、本年度は断念しました。次年度の課題として位置付けております。
|