研究概要 |
平成19年度は,多次元形状記憶合金方程式の初期値境界値問題の可解性についての研究を行った.既存の結果では,定数比熱の形状記憶合金方程式についての研究がなされていたが,本研究では温度依存する比熱を持つ多次元形状記憶合金方程式について考察した. 定数比熱は一般の温度下では妥当だが,低温の条件下では適切ではない.温度依存する比熱を用いることで,低温部でのエントロピーの振る舞いについて考慮する熱力学第三法則を満たす比熱が実現できる.Miranville-Schimperna(2005)によって,形状記憶合金とは異なるある相転移現象を記述する方程式系について,温度依存する比熱を伴う場合の可解性が示された.このことをヒントにして,我々は温度依存する比熱の形状記憶合金方程式を研究対象にして可解性を調べた.証明は,古典的なエネルギー評価,最大正則性評価(L^p型),放物型DeGiorgi法などを用いて必要な高階のアプリオリ評価を得ることが出来る.この結果では,既存の定数型比熱の形状記憶合金方程式の非線形項と比べると,温度一歪み相互作用の項により一般的なものをとることが可能になった.特に温度について線形増大する非線形項もとれるようになったため,解の挙動を調べることが出来るのではないかと期待している. しかし,常温下では定数比熱が妥当であるため,今後の研究では低温下で温度依存型,常温下では定数となるような比熱をとることが自然であり,この可解性を調べることも今後の研究課題である.本研究はポーランド科学アカデミーのIrena Pawlow氏とWojciech M. Zajaczkowski氏との共同研究で行った.
|