平成20年度の研究は、重み関数をもつ臨界ソボレフ・バーディ指数をもつ放物型方程式の時間大域解の漸近挙動の解析が主たるテーマであった。本年度は重み関数をもつ場合への試金石として、主に重み関数が定数関数である場合の解析を行った。 劣臨界指数をもつ放物型方程式に対しては、時間局所解の局所存在時間が初期値のエネルギーノルムで評価できるため、安定集合、不安定集合が存在することは比較的容易に示すことができる。しかし臨界ス数の場合には局所解の存在時間の初期値エネルギーノルムに対する依存性があらわでないため、安定集合・不安定集合の存在は知られていなかった。著者はエネルギー構造と方程式のもつスケール不変性に着目し、臨界問題に対しても安定集合・不安定集合が存在することを示した。これは特異的な重み函数を持つ場合に対しても直に拡張が可能な手法に基づいており、次年度以降の研究に重要な技術である。 また臨界構造をもつ偏微分方程式(系)の解析に対する知見を得るため、別のタイプの臨界型方程式であるKeller-Segel型方程式系の解析を行なった。本方程式系は放物型-楕円型連立系である。楕円型方程式が線型の場合には、一つの初期値に対して唯一つの時間局所解が存在することが知られていた。筆者(と共著者)は、楕円型方程式が非線型である場合には、一つの初期値に対して少なくとも二つの時間局所解が存在することを示した。これは、単独の放物型方程式に対する適切性の概念が、連立方程式の場合必ずしも適切ではないことを示唆しており、他の方程式系にも応用可能である。
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