本年度は、 1.トレース・ハーディ型不等式に付随する線型熱方程式の解の存在・非存在、 2.力学的境界条件をもつラプラス方程式に対する減衰評価とその応用、及び 3.重み関数を持つソボレフ空間上で定義された、ソボレフ臨界指数をもつ汎関数のPalais-Smale列の挙動の解析を行なった。 1.については2010年度に行なった、トレース・ハーディ不等式に付随する変分問題の最小化元の非存在に関する研究結果を受け、方程式のポテンシャル項の強さを表すパラメータの大小により放物型方程式の解の存在:非存在が分かれるという結果を得た。類似の結果はハーディ不等式に付随する熱方程式についてBaras-Goldsteinにより得られていたが、本研究は境界に特異性を持つ場合にあたり、この範疇の結果としては初めてのものである。なお本研究は東北大学石毛教授との共同研究による。 2.については、既に境界に非線型項を持つ場合にはFujita指数の導出がAmann-Filaによってなされていたが、そもそも線型方程式の解の挙動の概要は詳しく解析されてこなかった。本研究では解の詳細な減衰評価を求めることによりこの点を明らかにした。なお解析には臨界型補間定理が必要であり、見掛けの線型性にもかかわらず、臨界構造を持つという興味深い知見が得られた。 3.については、Fujita型方程式を前方自己相似変換した方程式の解析を行なう際に必要となるツールである。臨界指数をもつ、Gauss型重みを持つ関数空間上で定義された汎関数のPalais-Smale条件の破れを解析した。スケール不変性と平行移動不変性を破る重み関数の存在にもかかわらず、エネルギーの量子化が起こることが確認された。本結果の放物型方程式への応用は今後の課題である。
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