太陽の100万倍以上の質量を持つ超巨大BHと、太陽の10倍程度の質量を持つ恒星質量BHの存在はこれまで観測的にほぼ確かめられています。この間のmissing linkとして、中間質量BH(約1千太陽質量)が、超高光度X線源の中心に存在するのではないかと近年疑われています。もし本当なら、巨大BHの謎の形成過程を明らかにする鍵となります。しかしこれらの天体の非常に大きい光度は、恒星質量BHとそこへのガス降着率が異常に大きい状態(超臨界ガス降着現象)でも説明できるかもしれません。我々は、この可能性の真否を調べるため、Kawaguchi(2003)の超臨界降着円盤モデル(とその改良モデル)を用いて、超高光度X線源のX線データを詳細に吟味してきました。特に今回我々は、同一の天体を多数回観測したデータに着目しました。ある超高光度X線源の4年間の間に観測された良質の4回の観測データについて、従来用いられてきた"中間質量BH+亜臨界ガス降着"モデルでは共通のBH質量でデータを説明することができないことがわかりました。従って、中間質量BHがこの天体に居る可能性は棄却されました。一方、同じスペクトルデータについて、私の"超臨界ガス降着"モデルでは4つのデータを共通のBH質量(太陽の30数倍)で説明できることがわかりました。1回ごとの観測データだけなら、幾つかの物理パラメータ(BH質量やBHへのガスの降着率)を調整することでデータを説明でき優劣の判断がつかなかった超高光度X線源のモデルが、時間変動のデータを用いることで取捨選択できることがわかったのは今回が始めてです。この結果は現在査読雑誌(ApJ誌)に投稿中です。
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