巨大ブラックホール(BH)へのガス供給源としてダストトーラスが活動銀河中心部に存在します。可視光偏光観測結果などから、中心BHと降着円盤の周りを、ダストを含むclump群がトーラス状の分布で取り囲んでいると考えられています。近赤外線モニター観測はダストトーラス内縁と中心BHの距離が中心核光度の0.5乗に比例する事を明らかにし、ダストのsublimation(昇華)がトーラス最内縁の位置を決めている事を示しました。しかし、この半径と光度の比例関係は理論予測値に比べて系統的に約1/3程度小さく観測され、ずれる原因は長く謎でした。 そこで我々は、降着円盤からの放射が非等方である事を考慮すると、自然に、かつ定量的にこのずれを説明する事を示しました。すなわち、観測者が円盤を観る角度とトーラスから円盤を観る角度の系統的な差が、理論と観測結果の謎の不一致を生み出していたと理解できます。 具体的には、降着円盤からの輻射フラックスの角度依存性を用いてトーラス最内縁部の構造を求めたところ、すり鉢型の形状が得られました。これは、円盤・トーラスの赤道面に近い方向ほど輻射フラックスが小さくなるため、より円盤に近いところまでトーラス内縁が近づくからです。モニター観測結果と比較する為、各clumpからの放射の非等方性も考慮して、円盤のデルタ関数的な増光に対するトーラスの光度変動応答(transfer function)を計算しました。その結果、例えば天頂角25度のほぼface-onで観測する場合、近赤外線変動の紫外線光度変動に対する遅れ(トーラス内縁半径)は、中心核の放射が等方的と仮定して求めたダストsublimation半径よりも約1/3小さくなり、観測結果をよく説明する事がわかりました。
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