格子QCDと呼ばれる大型計算機を用いた新しい研究手法を用いて、中性子が持つ電気双極子モーメント(NEDM)を第一原理計算から計算・評価を行った。原子核子を扱うため、QCDがもつ漸近自由性により摂動計算を用いることはできない。しかし格子QCDを用いれば非摂動的に低エネルギーの物理を扱うことが可能である。この計算によりこれまでモデル計算でしか評価しえなかった真空が持つ荷電共役および空間反転(パリティ)対称性の破れを厳密に求めることが可能となる。 平成19年度ではフレーバー数2の動的クォークを古めたフルQCD計算に着手し、人為的に電場を入れたシステム上でNEDMを計算を行った。その結果、格子QCDの手法を用いて初めて統計的に有意な値を得ることが可能であることを示すことができた。その値は知られているモデル計算と比べて大きいものであった。ただし、現実のクォーク質量よりかなり重い領域の計算であるため、その値に含まれる系統誤差は大きいことが予想せれる。また、ゲージ配位に含まれるトポロジカルチャージの分布にも影響される。この分布はクォーク質量に依存してくるため、より質量の小さい動的クォークを含んだ計算を行う必要がある。今後の課題としていかに統計・系統誤差を減らすことができるかに焦点が向けられる。
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