本研究の大きな目的は、軽い中性子過剰核におけるクラスター・シェル競合を核種及びそれぞれの核の励起エネルギーの関数として系統的に研究し、中性子過剰核を含めた軽い原子核における非中心力(スピン・軌道力、テンソルカ)の役割を明らかにすることである。今年度は特に、この競合を郡論的手法を用いて分析するための手法の開発を進めた。ハンガリーのグループとの共同研究を進め、論文を準備中である。この他、もっとも中性子過剰な原子核である水素7(陽子1中性子6)の構造に関する論文を出版し、その中で、このような弱結合したエキゾチックな原子核においては、中性子-中性子間の引力が重要な役割を果たし、2中性子相関が重要となることを議論した。また、中性子過剰核においては、中性子のもたらす糊の効果により、これまでに安定な原子核で知られていたガス的なクラスター状態は、幾何学的構造をもったクラスター構造へと変化することを議論し、日本物理学会誌の最近の研究からにまとめた。そのような例の最も極端な例として、3つのαクラスターが直線状に配置したリニア・チェイン構造がまわりの中性子によって安定化する状況を、炭素同位体において分析し、論文として出版した。ここでは、クラスター構造を全く仮定しない平均場理論の模型空間と相互作用を用い、非常に一般的な枠組みを用いながらもリニア・チェイン・クラスター構造のようなエキゾチックな構造が自然に出現することを示した。さらに次の段階として、その安定性を時間に依存したハートリー・フォック計算(TDHF)につなぐことで議論した。さらに、原子核衝突における荷電平衡反応と、それを利用した未知の重い中性子過剰核の生成方法についてTDHFを用いて分析し、いくつかの論文を出版した。
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