弦理論から導かれるゲージ・重力対応を用いたQCDの非摂動的領域の研究を行った。この分野はホログラフィックと呼ばれ、近年非常に発展してきている。まず、ホログラフィックQCDの代表的模型である酒井杉本模型の問題点を克服した。酒井杉本模型はクォークが無質量であるという欠点があったが、代表者は模型に新しいDブレーンを加えて変形することにより、クォーク質量を導入することに成功した。その結果、パイ粒子の質量や、カイラル凝縮などが計算できるようになった。また、ソリトン解の量子化の手続きを応用し、バリオンの荷電半径、磁気モーメント、などの核子の静的な物理的諸量を酒井杉本模型から導出した。結果が実験とよく一致することを見た。従来の手法、たとえばスキルミオン模型などでは発散して得られなかった荷電半径や、メソンと核子の結合などを具体的に計算した。これは、ホログラフィックQCDにおけるバリオンがソリトン的すなわちDブレーン的であることをうまく利用して計算した遠距離の核力の導出の計算である。また、重い原子核にDブレーンのゲージ・重力対応を適用し、重い原子核に等価な重力背景時空を得、その時空の摂動スペクトルを求めることで、重原子核の巨大共鳴スペクトルを求めた。得られたスペクトルは原子核の質量数依存性が巨大共鳴と一致しており、興味深い。以上の研究成果は査読つき研究論文として出版し、世界各地(イタリア、韓国、台湾、フィンランドなどの大学・研究機関)でセミナー招待講演などの形で発表を行った。
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