研究課題
本研究は、全く新しい極限状態の物質「クォークグルーオンプラズマ(QGP)」の性質を、非平衡過程を通して理解することを目的としている。本年度は、非平衡過程の一つの例として、量子色力学のスケール不変性の破流と密接に関連がある体粘性に着目し、相対論的重イオン衝突反応における観測量に与える影響を調べた。QGPの時空発展に相対論的流体力学を適用した場合、流体方程式の解を如何に観測量に結びつけるかが常に問題となる。ずれ粘性の場合は、これまでに多くの解析がなされていたが、体粘性は、その取り扱いの複雑さと体粘性係数の小ささから、あまり注目されてこなかつた。本研究では、粒子分布関数における体粘性に起因する歪みを系統的に解析し、実験と比較しうるハドロンのスペクトルとその方位角異方性のパラメータに与える影響を定量的に評価した。その結果、体粘性の影響が小さいという従来の予測に反し、非自明なメカニズムによって観測量に大きな影響を及ぼすことが判明した。更に、重イオン衝突反応の統合的な記述の一環として、ハドロン相に粘性の影響を取り入れたQGP流体-ハドロンカスケード統合モデルに、従来無視されてきた重イオン衝突直後のQGPの空間的な揺らぎを考慮した。完全に球対称な安定核同士を衝突させても、原子核(重イオン)内核子の位置の揺らぎから、衝突直後の生成物質の空間分布は、衝突ごとに異なる。この効果を取り入れることにより、ハドロンのスペクトルの方位角異方性の実験結果をより良く再現することができた。このモデルは、今後実験結果からQGPの粘性を定量的に引き出す上で重要となる。
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