近年、円形加速器の大幅な小型化が望まれている。それを実現するための検討課題の中でも、特に、ビーム入出射装置であるキッカー電磁石システムに対する要請は厳しく、分布定数型に代表される従来の方式を用いる限りそれを克服することは困難であり、こうした小型円形加速器の実現には至っていない。 そこで本研究では、分布定数型のように複雑な構造によってインピーダンス整合の機能を持たせるのではなく、磁性体コアとコイルとで構成される単純な集中定数型電磁石を用い、これに外付けのインピーダンス整合回路を組み合わせてT架橋四端子回路網を構成し、原理的に完全なインピーダンス整合を実現する機能分離型システムを提案している。 本年度は、そのモデルシステムを構築して、この方式の実証試験を行った。試験では、典型的なキッカー電磁石システムをモデルケースとし、フェライトをコア材質とする、口径:140mm(W)X55mm(H);長さ:400mmの窓枠型キッカー電磁石を負荷とした。これにセラミックコンデンサ(2nF)、空芯インダクタ(0.4micro H)、および終端抵抗(20 ohm)からなる整合要素を組み合わせてT架橋四端子回路網を構成し、完全整合方式とした。ここでは、既存のフェライト材を使用し、透磁率の周波数特性試験や励磁電流依存性試験などによる選定は行わなかった。また、各整合要素のパラメーターがデザインと若干異なっていたが微調整を行わなかった。 こうして製作したモデルシステムに波高5kV、幅1.2micro secのパルス電圧を印加して試験を行ったところ、インピーダンス不整合による反射を原因とする不正磁場は一切見られず、この方式が有効に機能することを実証できた。但し、数%のリップルやオーバーシュートは見られ、整合要素の最適化を検討している。
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