近年、円形加速器の大幅な小型化が望まれている。それを実現するための検討課題の中でも、特に、ビーム入出射装置であるキッカー電磁石システムに対する要請は厳しく、分布定数型に代表される従来の方式を用いる限りそれを克服することは困難であり、こうした小型円形加速器の実現には至っていない。 そこで本研究では、分布定数型のように複雑な構造によってインピーダンス整合の機能を持たせるのではなく、磁性体コアとコイルとで構成される単純な集中定数型電磁石を用い、これに外付けのインピーダンス整合回路を組み合わせてT架橋四端子回路網を構成し、原理的に完全なインピーダンス整合を実現する機能分離型システムを提案している。 昨年度、モデルシステムを構築して本方式の実証試験を行ったところ、インピーダンス不整合による反射を原因とする不正磁場は一切見られず、この方式が有効に機能することを実証できた。しかしながら、励磁波形に数%のリップルやオーバーシュートが見られた。 そこで本年度は、こうした不正磁場を改善するために整合要素の最適化を行った。まず、各整合要素のパラメーターがデザインと若干異なっていたので、ネットワークアナライザで測定しながら微調整を行った。このネットワークアナライザによるインピーダンス測定結果から、整合要素にわたる浮遊成分を見積もることができたので、それをシミュレーション計算の回路モデルに組み込んだ。その計算結果は、励磁波形および入力インピーダンスの測定結果を再現し、回路モデルの妥当性を確認できた。この回路モデルを用いて計算で検証しながら、特に励磁波形を悪化させる浮遊成分を軽減するように整合要素の物理的配置を調節し、再帰的に最適化を行った。その結果期待通りの性能を得て、本方式が円形加速器を小型化するためのブレークスルー技術のひとつに成り得ることを実証できた。
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