(本研究の目的)地球に降り注ぐ高エネルギーの陽子(宇宙線)がどこでどのように加速されているかは、宇宙線が発見されて以来100年たった今でも解決していない大問題である。本研究は、宇宙線起源の有力候補である超新星残骸(SNR)のうち、TeV (10^<12>eV)のガンマ線が検出されており粒子を加速している兆候を示すものに対して、ガンマ線衛星GLAST(フェルミに改称)を用いてGeV(10^9eV)付近のエネルギースペクトルをこれまでの数10倍の感度で求める。これにより、加速されている粒子が陽子かどうかを判別し、SNRがどの程度宇宙線加速に寄与しているのかを明らかにする。 (21年度の研究の成果)本年度は、フェルミ衛星で明るく輝いているSNRであるW28のデータ解析、議論を進め論文化し雑誌に投稿した。この天体はSNRと分子雲の相互作用領域でTeVガンマ線が検出されているため、宇宙線の主要成分である陽子の加速源の最有力候補天体の1つである。ただし、放射は広がっており、銀河面に近いため背景γ線放射の見積もりが簡単ではない。それらの系統誤差を見積もり、空間分布およびエネルギースペクトルの導出を行った。得られた結果を用い放射機構の議論を行った。その結果、ガンマ線の放射はW28で加速された宇宙線陽子が分子雲中のガスと衝突する際に生ずる中性パイオンの崩壊ガンマ線で最も自然に説明できることを示した。即ち、本研究の目的であるSNRで加速されている粒子種を決定し、宇宙線に注入される総エネルギーを求めることができた。ただし、衛星打ち上げが遅れたこと、空間的広がりの推定や銀河面放射等の系統誤差の見積もりに時間を要したことから、複数の天体について論文化を進められず、系統的な研究まではできなかったことを付記しておく。
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