本年度は小さな階層性を持った超対称粒子のスペクトラムを実現できることが知られている超対称性の破れのMirage伝達機構とそれに近い質量スペクトラムを実現できるDeflected anomaly伝達機構の間の関係を研究した。この研究により超対称性の破れの伝達機構としては全く異なるにもかかわらずDeflected anomaly伝達の低エネルギーでの質量スペクトラムはMirage伝達と同じmodular weightと呼ばれるパラメータで完全に記述できることが明らかになった。Mirage伝達においては小さな階層性を実現するためにはanomaly伝達とモジュライ伝達の強さの比であるαと呼ばれるパラメータが2になるモジュライのUplifting potentialが必要であるが、これをstringの有効理論として実現することが困難であることが指摘されている。Deflected anomaly伝達機構ではこれをMessenger場の数を調節することにより自由に選ぶことが可能である。これにより、小さな階層性を実現する模型を構築する自由度が広がった。小さな階層性を実現するためにはさらにHiggs場とtopクォークのmodular weightの間に一定の関係を満たさなければならないが、これをDeflected anomaly伝達の枠組みで実現する方法を開発することが今後の課題として残された。一方、Mirage伝達は一般に軽いモジュライ場を伴うために宇宙初期にモジュライ振動の崩壊によるgravitinoの過剰生成が宇宙論的に問題を引き起こすことが知られている。本年度はこの問題を解決する方法についても考察を行った。ひとつの方向はMSSMにNeutralinoよりも軽いsingletを加えることにより暗黒物質の質量を下げる方向である。この可能性を研究し、Mirage伝達にaxionを加えることにより宇宙論的に問題のないMirage伝達模型を構築することに成功した。本成果はPhysicalReviewD誌に投稿中である。
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