次世代放射光源で期待されている極短電子パルスのダイナミクスに関する実験的研究のため、フェムト秒レーザーバンチスライス法を利用した計画について提案した。UVSOR-II電子蓄積リングでは国内で初めてバンチスライスに成功しており、電子バンチの中にディップが構成されていることをテラヘルツ域のコヒーレントシンクロ放射光(CSR)で確認している。これを疑似フェムト秒電子バンチとみなした実験を行った。 通常の加速器運転モードではフェムト秒のディップ構造は短時間で埋もれてしまうが、モーメンタムコンパクションファクターを抑えた運転モード(低αモード)では、比較的長い時間構造が保持される。つまり、レーザー照射後、蓄積リングを周回した後もCSRを出し続けることを意味する(マルチターン効果)。そこで、複数の異なる波数帯域を持つ超高速ダイオード式テラヘルツ検出器を用いて、電子蓄積リングの周回毎のCSRを計測した。通常の運転モードでは、2周目以降はほとんど観測できなかったが、低αモードでは7周目までCSRが発生していることがわかった。それは、ある特定の波数に限定されていた。 このマルチターン効果は別のCSR実験においても確認されている。申請者らはレーザーパルスの振幅に正弦波変調を加え電子パルスと相互作用させる実験を行った。その正弦波変調のビート周波数によってCSRの強度が異なり、2か所でピークがあった。レーザー照射直後と電子バンチ周回後(2周目)で、CSRの強度が最大となるビート周波数が異なるためである 以上の実験結果は計算機シミュレーションの結果と一致しており、観測されたCSRは疑似フェムト秒電子パルスの推移を反映しているものと考えられる。本手法がフェムト秒電子パルスの実験検証につながることを確認するとともに、電子ビーム診断技術としても有望であることを証明した。
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