ストレンジネス(sクォーク)を含む軽い原子核には、陽子と中性子のみからなる普通の原子核にはない非常にエキゾチックな性質があると期待される。今年度は、そのような原子核の一つ「K原子核」(反K中間子(以下K^<bar>と記述)を含む原子核)を集中的に調べた。 「原子核の密度は一定である(密度の飽和性)」という常識が原子核物理にはある。しかし原子核内にK^<bar>が入ると、K^<bar>核子との間には非常に強い引力が働くため、原子核内部が高密度になる可能性が考えられる。この点においてK原子核は興味深い。また高密度状態はハドロン物理においても重要なトピックであり、その点からも関心がもたれている。 このようなK原子核の性質を丁寧に詳しく調べるため、最も基本的なK原子核"ppK^-"(陽子p二つと一つのK^-中間子から成る系)を調べている。本年度は、昨年度完成させた模型を用いて変分計算によって得られたppKの波動関数の解析を進めた。その結果、pとK-の準束縛状態であると考えられているハイペロンの励起状態Λ(1405)が、ppKの中でも依然生き残っていることを確認した。さらに昨年度までのカイラル理論に基づくK^<bar>-核子間相互作用を用いた計算では含まれていない諸効果(1. Disersive effect、2. P-wave K^<bar>N 相互作用、3.二核子吸収の効果)を見積もった。これらを考慮すると、ppKの全束縛エネルギーは、20〜40MeV、全崩壊幅は10OMeVを超える可能性があるという結論に達した。
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