LHC加速器とATLAS検出器は、2007年末重心系エネルギー900GeVで稼働を始める予定であったが、加速器マグネットの不具合等により、2008年夏から重心系エネルギー10TeVで実験を開始することとなった。平成19年度は、モンテカルロ・シミュレーションによる電子・光子の検出性能評価を重点的に行った。特に、実験開始時から高統計が期待される低エネルギー光子を用いた性能評価を行った。低エネルギー光子は主に中性パイ中間子の崩壊により生成されるため、中性パイ中間子の不変質量を再構成することにより光子を選別し、検出器の光子に対する応答を調べることができる。この手法を用い、電磁カロリメータにおけるエネルギー・クラスター検出のためのアルゴリズムの最適化を行った。光子の電子対へのconversionを用いた検出器内物質量の分布測定については、内部飛跡検出器における飛跡を再構成するアルゴリズムが最適化されておらず、今後の課題とした。また、ATLAS検出器における電子・光子の検出性能評価の研究について、平成19年度に得られた結果を国際会議にて成果報告を行った。ヒッグス粒子探索の研究については、実験初期に得られる量子色力学(QCD)反応過程に起因するバックグランドの研究を重点的に行った。特にQCD反応過程における光子対生成について、QCDの高次補正を導入したイベントジェネレータの開発に着手し、実データ解析に用いるべく、開発を進めていく予定である。
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