今年度も夏季には乗鞍観測所(東大宇宙線研)で、冬季は柏崎刈羽原子力発電所で雷活動にともなう高エネルギー放射線の観測を行った。両実験ともに、雷放電に同期する放射の振る舞いをより詳しく知るため、データ収集システムを刷新して、時間分解能をこれまでの1秒から100マイクロ秒と大幅に上げた。前者の乗鞍実験においては雷活動に同期する放射は得られなかったが、後者では2例のイベントを得ることに成功した。 昨年度までに得られたll例のイベントをもとに、雷雲のなかでの電子の加速エネルギーの限界と、電子の加速を引き起こすきっかけが宇宙線であるのかどうかを明かす解析を行った。具体的には、個々のガンマ線のエネルギースペクトラムから、源までの距離やガンマ線を放射している相対論的電子の数を見積もるとともに、個々のスペクトラムをすべて足し上げて解析的にガンマ線に対する感度を上げることを試みた。その結果、RHESSIという衛星による観測では、雷放電からのガンマ線で20MeVを超えるものは報告されていないが、地上での観測では、雷雲から20MeVを超えるガンマ線が放射されている可能性が示された。これにより、雷放電での瞬間的な電子の加速と雷雲のなかの連続的な電子の加速において、その加速限界が違うのかもしれないことをはじめて示した。また、個々のガンマ線スペクトラムから求めた相対論的な電子の数が宇宙線を種としてガンマ線が発生するというモデルとおよそは一致することがわかった。
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