本研究は、原子核構造研究をはじめ基礎物理研究、量子情報研究など現代物理学になくてはならない原子スピン偏極の生成を広範な元素に対して可能とすべく、超流動ヘリウム中という特異な環境下に原子を植え込み光ポンピング法を行うという新しい偏極生成技術を確立することにある。昨年度までに、私は非アルカリ金属Ag原子に対して超流動ヘリウム中における原子の吸収波長を測定、最適な波長のレーザー光を用いて最大65%以上という高い偏極度を得ることに成功した。 本年度は、昨年度に開発した手法を用いて同じく非アルカリ金属であるAu原子の偏極生成を試みた。まずAu原子に対して超流動ヘリウム中における原子の吸収波長を測定し、最適な励起光源を準備した。同時にAu原子の効率的な供給およびレーザー分光を可能とすべくクライオスタットの改良を行い、またデータ収集を効果的に行うため、新しい測定回路を構築した。上記開発を元に、Au原子の光ポンピング実験を行い、およそ50%以上の高偏極生成を実現した。また、Ag原子と同様Au原子についても100%の完全偏極に到達しないのは照射レーザーが完全に円偏光となっていなかったためとわかった。今後の改善により100%の完全偏極に到達可能と考えられる。さらに、レーザー光強度を変化させた時の生成偏極度の変化から大まかな緩和時間を見積もり、Au原子に関して100ms以上という長時間の偏極保持が可能とわかった。
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