研究概要 |
重力を含む統一理論の有力候補である超弦理論を,宇宙背景輻射の観測によって検証することを目指した研究を行った。最近の研究により,超弦理論には,我々の宇宙のような膨張宇宙が,解として多数存在することが明らかになり,また,我々の宇宙は量子的トンネル効果によって生成された可能性が高いと考えられている。研究の目的は,第一に,そのような宇宙に関して「ホログラフィー原理」に基づく厳密な記述法を確立し,準古典近似を超えた解析を行うこと,第二に,その結果を用いて,超弦理論が宇宙背景輻射のスペクトラムに与える影響を明らかにすることである。平成19年度は,主に第一の課題に関して,以下の研究を行った。(1)量子的トンネル効果によって宇宙が生成される場合,「永久インフレーション」と呼ばれる現象が起こる。永久インフレーションにおいては,宇宙生成の確率の定義等,従来の準古典近似では解明できない難問が存在する。Shenker教授(スタンフォード大学)と共同で総合報告"Eternal Inflation"の執筆を進め,永久インフレーションの根拠と未解決問題に関する概説を行った(平成20年度発表予定)。(2)Susskind教授(スタンフォード大学)らとの共著論文で2006年に提案した,2次元共形場理論を用いた宇宙論の記述法を精密化することを目指し,3点関数の解析を行った。それを用いて,共形場理論の基本的自由度を明らかにすることを目指し研究を続けている(Susskind教授らとの共同研究,平成20年度発表予定,途中経過を日本物理学会において発表)。(3)永久インフレーションにおいて現れる,非自明なトポロジーを持った宇宙の性質を調べた。そのような宇宙に関して,共形場理論の観点からの解析を続けている(Susskind教授,Shenker教授らとの共同研究,平成20年度発表予定)。
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