研究概要 |
重力を含む統一理論の有力候補である超弦理論を、宇宙背景輻射の観測により検証することを目指した研究を行った。最近の研究により、超弦理論には我々の宇宙のような膨張宇宙(正の宇宙項を持った宇宙)が、解として多数存在する事が明らかになりつつある。その場合、我々の宇宙は、より高い宇宙項を持った宇宙からの量子的トンネル効果によって生成された可能性が高いという事が、準古典的重力理論から結論される。この研究の第一の目的は、そのような宇宙論を扱うための厳密(非摂動的)な枠組みを「ホログラフィー原理」に基づいて確立する事である。平成20年度は、平成18年にSusskind教授(スタンフォード大学)らと共同で提案した非摂動理論を精密化する事を目指した。特に、トンネル効果によってできた宇宙(「バブル」)の衝突により、非自明なトポロジーを持った宇宙が実現され得る事を証明し、それが、非摂動理論の定義空間のトポロジーの足し上げに対応する事を指摘した(Susskind, Shenker, Bousso各氏らとの共著論文)。また、トンネル効果で出来た宇宙における揺らぎの性質を調べ、宇宙背景輻射スペクトラムを解析した(平成21年度に論文発表予定)。また、付随的な問題として、ホログラフィー原理に基づくブラックホールの量子論の研究を行った。ブラックホールに物質を落とした際、準古典近似によると、その物質が持つ情報が消失するように見える、という問題が以前から知られていた。一方、ホログラフィー原理によると、情報は、ブラックホールのホライゾン上の自由度に蓄えられ最終的に量子的輻射として外部に戻ってくると考えられている。その立場から、量子情報がホライゾン上に広がる速度を評価し、自然界における情報の拡散の速度に上限があるという予想を提出した(Susskind氏との共著論文)。
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