半導体量子ドット中の励起子はコヒーレンスが長時間持続する点が優れており、量子ゲート操作など量子情報科学への応用が期待されている。しかし単一量子ドットレベルでのデコヒーレンス時間の測定は困難が多い。本研究課題では高感度・高分解能に計測可能なフーリエ分光法を単一InP量子ドットに適用した。その結果、低温下において温度上昇とともに励起子線幅が先鋭化する、つまりコヒーレンスが回復するという極めて興味深い結果が見いだされ、それによって励起子位相緩和過程の新たなメカニズムを提案することができた。フーリエ分光法によって得られた励起子発光の自己相関強度は遅延時間とともに非指数関数的な特徴のある時間減衰を示すことがわかった。さらにその減衰が6Kから20Kまでの間に温度上昇によって長くなると言う異常な結果が見いだされた。この結果はフォノンによる通常の位相緩和メカニズムだけでは説明できず、環境揺らぎの効果が大きく影響しているというモデルをたてることで非常に単純に説明できることがわかった。障壁層にトラップされた余剰キャリアがドットの励起子ヘランダムなエネルギーシフトをもたらすことによってわずかなスペクトル拡散を起こし、これが熱活性によって温度の上昇とともにこのメカニズムが減少することによって温度依存性を無理なく説明することができる。本研究課題によって、これまで明らかにされてこなかった量子ドット中の励起子の位相緩和過程のメカニズムを新たに説明ずるモデルを提案することができた。
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