本年は、スピンホール効果のうち特に興味深い現象である量子スピンホール効果について以下の成果を得た。まず量子スピンホール系のエッジ状態・表面状態の侵入長(バルクにどのくらい侵入するかの長さ)がどのように与えられるかについて、バンド構造との関係を明らかにした。エッジ状態や表面状態はエッジや表面近くに局在しているといっても、その長さは系によってさまざまであるため、エッジ状態・表面状態の観測、利用などにはその侵入長の知識が不可欠である。この侵入長はエッジ状態の波数空間での広がりの逆数でほぼ与えられることを発見した。特に侵入長の短い例としてビスマス薄膜をとりあげ、その侵入長が格子間隔程度の短いものであることを明らかにした。 また関連した効果として量子スピンホール系のエッジ状態による熱電輸送について研究した。エッジ状態は非磁性不純物に対して弾性散乱を受けないため、弾道的な伝導となり、それを生かすことができれば輸送に大きく寄与すると予想される。通常の試料形状ではバルクキャリアがエッジキャリアに比べて断然多いためエッジの輸送はなかなか優勢になりえない。そのため幅がナノメータサイズのリボン状の系を考えて、バルクキャリアとエッジのキャリアが共存する状況で計算を行ったところ、低温になるとエッジ状態が優勢になってきて、エッジ状態による熱電輸送が十分観測にかかることを理論的に見出した。こうしたエッジ状態による熱電輸送は、エッジ状態の非弾性散乱長が長くなるほど顕著になってくることを見出した。
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