研究概要 |
多層グラフェンの電子構造に関して以下のような研究を行った。グラファイトには通常のABA積層のほかにABC積層と呼ばれる構造が存在し、その電子構造は大きく異なる。ABA, ABC多層グラフェンに対してゲート電場下での遮蔽効果と電子構造への影響について詳しく調べた。ABCグラフェンにおいては表面状態に起因する価電子バンドと伝導バンドが低エネルギーの物理を支配する。これら表面バンドはフェルミエネルギー近傍で極めて大きな状態密度を持つため非常に強い分極効果をもたらし、外部電場を強く遮蔽することを示した。また電場を印加することにより本来接している価電子バンドと伝導バンドの間にギャップが開き、その幅は外部電場の大きさに対して非線形な依存性を示すことを明らかにした。外部電場によるギャップ制御はエレクトロニクスへの応用の観点から極めて重要である。また、多層ABCグラフェンに存在する様々な層間相互作用が電子構造へ及ぼす影響を分析し、その結果表面バンドは120度対称性をもって強く歪んでいること、また価電子バンドと伝導バンドは複数の接点(ディラック点)を介して複雑に接合していることが明らかにされた。 一方、単層グラフェンの持つ強大な反磁性の起源を解明するべく、空間的に非一様な磁場の下でのグラフェンの電子応答を計算した。特定の長さスケールを持たない線形バンド構造に起因し、外部磁場と相似な磁場分布を誘起する磁場鏡像効果を見出した。また原子層一層からなる物質にもかかわらずグラフェンと外部の磁石との間は巨視的な力が働くことを示した。
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