本研究は、単一スピン検出を可能にするスピン分解局所状態密度計測法の確立を目指ざすために、スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)技術に関する基礎的研究を行った。スピン偏極sTMでは表面のスピンに敏感な磁性薄膜探針を用いて、表面と探針それぞれの磁化方向によってコンダクタンスが変化することを利用する。その際、表面の磁化方向を知るた釧こ探針の磁化方向を知る必要がある。探針の磁化方向を調べるためには、磁化方向が既知である試料を測定すれば良い。この目的に用いられる標準表面として、単結晶タングステン(110)表面に1.5MLのFeを蒸着した試料とクロム(100)表面を用意した。タングステンおよびクロム表面はそれぞれ炭素および窒素の偏折が顕著であることが知られているが、表面のスピンはこれらの不純物に非常に敏感であることがわかった。表面の清浄化に必要な手順をほぼ確立できたので、今後も本研究を継続していく。 また、単一スピン検出を行うために、表面に磁性原子を分散させた試料が必要となる。このとき磁性原子と基板のカップリングを防止するために極薄酸化膜が有効である。そのために銅-アルミニウム合金表面に偏析したアルミニウム原子層を酸化することによって得られる平坦なアルミナ膜を採用することとした。アルミナ膜を作製する準備実験として、銅-アルミニウム合金の単結晶表面の清浄化方法およびアルミニウム原子の偏析条件をオージェ電子分光および低速電子線回折を用いて検討し、さらにSTMで電子状態の計測を行った。アルミニウム原子の偏析量を測定したことにより、偏折に伴う電子状態の変化を過去に報告された結果より精密に定量化することができた。これらの結果を論文にまとめた。
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