本研究の目的は、超音波によって固体中に低エネルギーフォノンを誘起した状態でミュオンスピン緩和(μSR)実験を行うための測定系を開発し、超音波μSRの手法と有効性を確立することである。そのために必要な作業として、以下の事柄をおこなった。 まずは、超音波を励起させるためのパルス発生回路の構築である。加速器から出されるチェレンコフ・トリガに同期させる形で高周波ロングパルスを出力する高周波系を構築した。さらに、大型の試料(φ6×20mm)を固定して超音波を励起し、試料部分にのみミュオンビームを当てるための高周波実験に対応した特殊なプローブを完成させた。 次のステップとして、試料をプローブにセットした状態でヘリウム冷凍機で冷却試験を行い、ヘリウム温度での超音波印加を確執し、実際の測定を試験的に行った。 超音波は、長波長極限の低エネルギーフォノンであるが、別の見方をすると、モードセレクティブな一軸圧力の発生と同義である。したがって、超音波μSRの予備実験として通常の静水圧下でのμSR実験を行い、圧力効果の程度を把握することは極めて重要である。そこで、スピンギャップをもった量子スピン系Tl(Cu_<1-x>Mg_x)Cl_3における圧力下実験を行い、不純物置換により誘起された短距離秩序状態から静水圧力印加によりスピンギャップが潰れたときに出現する長距離磁気秩序状態への変化が連続的なクロスオーバーであることを見出した。モードセレクティブな一軸圧力下でのミュオン実験に際しての明確な方針が一つ構築された。
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