Z2トポロジカル絶縁体を特徴づけるため、境界のないバルクの系で、不純物散乱によってZ2秩序が壊れていく様子に注目する。具体的なモデルとしては、Z2トポロジカル絶縁体の原型であるKane-Mele模型を採用し、またトポロジカル絶縁相を直接見に行くのではなく、むしろドープした系における局在の性質に焦点を絞る。とりわけ格子間隔程度の短距離の散乱に注目し、K点とK'点の間を行き来するような(バレー間)散乱過程が、弱局在の相図に及ぼす影響を調べる。2次元系において、金属相近傍における最低次のスケーリングは、通常、局在に向かういわゆる「弱局在」であるが、時間反転対称性の破れがあると、最低次ではスケールしない「ユニタリーなふるまい」が見られる。一方、スピン軌道相互作用による散乱では、逆にサイズとともに伝導率が上昇する「反局在」が現れる。グラフェンにおいては、バレー間散乱が無視できるとき、不純物が通常の散乱体であっても、特徴的にこの反局在が起こる。一方、我々は、ドープされたZ2トポロジカル絶縁体の場合、モデル全体としては、時間反転対称性を破っていないのに、トポロジカルな質量項の指紋として、ユニタリーなふるまいが見られることを解析的に見出した(通常の質量項では、弱局在になる)。次に、試料が基盤の上にある場合、一般には、2次元面と垂直な方向の反転対称性は破れており、ラシュバ項が存在する。ラシュバ項は、これまで不活性だった実スピンの自由度を活性化するとともに、時間反転対称性を回復するという「二重の役割」を担う。その結果、グラフェンのときとは反対に、Z2トポロジカル絶縁体では、「バレー間散乱により」系は反局在を示す。
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