強相関電子系において、BCS超伝導体とは異なるギャップ構造をもつ異方的超伝導体が発見されており、そのギャップ構造は比熱、NMR、STM、熱伝導率等により実験的に調べられてきた。しかしこれらの実験手法を圧力下で行うことは難しいことから、圧力下で超伝導ギャップ構造を決定するための実験手法の確立が強く望まれている。このような背景のもと、申請者は異方的超伝導体における磁束フロー抵抗の磁場方位依存性とギャップ構造の関係を明らかにすることを目的としている。そのために、すでにギャップ構造が明らかにされている有機超伝導体κ-(ET)_2Cu(NCS)_2の磁束フロー抵抗の磁場方位依存性を詳細に測定し、ギャップ構造と磁束ダイナミクスとの関係を調べる。19年度は、ロックイン増幅器等を購入し、測定系の整備に努めた。また、物質・材料研究機構にて、κ-(ET)_2Cu(NCS)_2の磁束フロー抵抗の磁場方位依存性を様々な温度で調べた。これまでの実験から超伝導状態で見出されていた磁束フロー抵抗の四回対称性は常伝導相でも僅かに残っていることが明らかとなった。この成果は9月にスペインで行われた国際会議(ISCOM2007)および近畿大学で行われた物理学会で発表された。現時点で磁束フロー抵抗の四回対称性の起源は明らかに出来ていないが、今後は磁束フロー抵抗の磁場強度依存性も詳細に検討し、磁束ダイナミクスの散逸の起源についての検討を行う予定である。
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