遷移金属酸化物をベース層に持つトンネルトランジスタ開発のため、バナジウム酸化物およびチタン酸化物を用いて人工構造を作製し、磁場に対する応答を含めた電気的特性を調べた。バナジウム酸化物人工構造では、界面を利用した局所的ホールドープに成功し、大きな異常磁気効果の実現に成功した。酸化物の界面を利用し、局所的にキャリアを導入することは、近年、全世界的に精力的に研究が進められているテーマであるが、本研究では電子ではなくホールを、制御された量だけ注入することに成功したことが大きな特徴である。すなわち、既成の電子ホールドープ界面と組み合わせて、バイポーラ型のデバイスを開発してゆく土台が完成したわけである。また、電子ドープの系では、界面における酸素欠損発生が見かけ上同様の効果を生むため、本質的な現象が何かということが常に問題となってきたが、今回のホールドープ系の発見は、界面ドープの現象を一気に明瞭なものとした。さらに、微量ドープしたチタン酸化物と金属とでショットキー接合を作製し、この電流電圧特性の極性が、温度下降に伴って反転することを見出した。半導体にはない酸化物の特性として、陽イオン・陰イオンの存在にもとづく分極の効果が挙げられるが、チタン酸化物ショットキー接合では、この分極の効果が決定的な役割を果たし、ショットキー界面近傍では、バルクとは定性的に逆の誘電的特性が現れることから、このような異常な電流電圧特性が現れることが分かった。この研究では、単一界面のショットキー接合という、人工構造の中で最も簡単な系を用いて、酸化物人工構造に普遍的に現われる特異な効果を抽出したという点でも大きな意味を持つ。
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