局在電子スピン間の交換相互作用ネットワークにフラストレーションが生じる場合、二次元以上の系においても古典的長距離秩序が抑制され対称性の破れを伴わない量子スピン液体が実現する可能性が理論的に提唱されている。特に、スピンの低エネルギー励起が大きなフェルミ面をもったフェルミ粒子(スピノン)によって記述される場合に大きな関心が集まっている。 最近、パイロクロア格子と関連した、正三角形が三次元的に角共有しているハイパーカゴメ格子をもつスピン量子数S=1/2のイリジウム酸化物、Na4Ir308が合成され、その比熱測定から最低温度まで磁気転移を示さないことが見いだされた。 我々はこの物質の粉末試料に対する23Na NMRを行った。この結果、2K(〜6x10-3J)まで磁気的長距離秩序をもたず、かつ磁気励起にフルギャップがないことを見いだした。1/T1Tは50 K付近に極小値を持ち、20K以下においては絶縁体であるにも関わらず有限一定値に近づく。これは同じく20 K以下で有限一定値に近づく周波数シフト(静磁化率)の結果と矛盾せず、かつ最低温度でスピノンのフェルミ面が残っている、という量子スピン液体描像と矛盾しない。
|