銅酸化物高温超伝導体の発見以来、分子性導体や遷移金属酸化物などの強相関電子系における超伝導発現機構が従来型のものと大きく異なり、超伝導転移温度の向上にも大きく寄与することが明らかとなってきた。この強い電子相関をもつ物質系における超伝導発現の機構についての一つの提案として、絶縁スピン液体相にごくわずかの遍歴性を与えることによる巨視的量子状態の発現として超伝導が出現する可能性が指摘されている。 このため、絶縁スピン液体相の開拓は、非従来型超伝導発現の機構解明のための大きな寄与を与えると考えられており、大きな分野として発展してきている。近年、私たちは、初め三次元スピン液体物質Na4Ir308が最低温度まで古典的磁気秩序を持たず、ナトリウム核NMRからもスピン励起が連続準位的になっていることを明らかにしてきた。こういった現象は非金属物質において見いだされた例はこれまでになく、既存のスピン液体相開拓研究の中でも特異な位置を占める成果である。 今年度はスピン液体状態を基底状態に持つイリジウム化合物Na4Ir308に伝導キャリアをドープすることにより磁性がどのように変化していくかを明らかにした。この結果、スピン液体状態は5%前後のキャリアドーピングに対しては比較的安定に存在し、キャリア数を制御パラメーターとした時にスピン液体が「相」として存在することを明らかにした。
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