研究課題
MDT-TSF分子のSe原子2つをSに置換したMDT-TS分子は不整合格子系有機超伝導体(MDT-TSF)(AuI_2)_0.436と同型の(MDT-TS)(AuI_2)_0.441を形成する。しかし50Kで金-絶縁体転移を示し、圧力下でのみ超伝導を示す。スピン磁化率が50K以下で異方性をしめすことから、常圧での基底状態は反強磁性絶縁体と考えられる。しかし、反強磁性に特徴的なスピンプロップ転移が5Tまでの磁場下で観測されていない事から決め手に欠けていた。そこでマイクロカンチレバーを用いて単結晶の磁気トルク測定を行った。磁気手ルクの磁場依存性からフロップ磁場が6.9Tと極めて大きいことが明らかになった。高いネール温度、大きな異方性エネルギーは最高の超伝導転移温度(T_c)を有するβ'-(BEDT-TTF)_2ICI2をも凌ぐ。1.2GPa以下までの電気抵抗測定からはT_Cが圧力の増加に連れて上昇する傾向が観測されていた。この結果はより高圧下ではさらなるT_c上昇の可能性を示している。二重シリンダーの圧カセルを用いて1.8GPaまで測定を行ったところ、1.27GPa下で最高T_c=4.9kを示し、それ以上の圧力ではT_cは低下することを明らかにした。超伝導相は1.5K以上にて1.0-1.8GPaの比較的広い圧力範囲で存在する。TcだけがBEDT-TTF塩より低い原因として、アニオンの不整合格子ポテンシャルが超伝導発現を抑制している可能性が考えられるが、はっきりとした結論を得るには至っていない。これらの結果から当初の目的である(MDT-TS)(AuI_2)_0.441の温度-磁場-圧力相図を得ることができた。
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