分子性導体α-(BEDT-TTF)2I3は初期に合成された擬2次元分子性導体の1つであり、圧力下ではフェルミエネルギー近傍において質量ゼロのディラック粒子と同様の円錐状の線形分散(ディラック・コーン)を持ち、圧力下で線形分散の交点にフェルミエネルギーが一致することにより系はゼロギャップ状態となる。この状態での輸送現象(電気抵抗、ホール効果)は大変興味深いものであり、通常の金属や絶縁体と全く異なっている。また磁場中で観測される絶縁体相や電気抵抗・ホール抵抗におけるプラトーの出現するメカニズムは未だ解明されていない。本研究では磁場中のディラック・コーンにおいて電子相関を取り入れることで磁場中の特異な物性を解明することを目指している。平成20年度では、磁場がゼロのときの誘電関数をTilted Weyl方程式に基づいて研究した。化学ポテンシャルに依存することを考慮した解析的計算を行い、グラフェンのディラック電子の場合とは異なるカスプ構造や異方性を発見した。これはディラックコーンが傾斜していることの効果である。さらに波数ゼロの極限を取ることにより光学伝導率を計算したところ、バンド間遷移の寄与においてディラックコーンの傾斜を反映した特徴的な異方性を見出した。また、α-(BEDT-TTF)2I3と関連の深い物質の電荷秩序と超伝導の性質を調べた。
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