研究概要 |
本研究では、強磁場中で出現する種々の相の発現機構を解明する手がかりを探すために、交流法を基本にして、パルス強磁場中における比熱測定システムの開発を目的とする。 交流比熱測定では、測定周波数ωに対して装置固有の特性周波数ω_1(試料と試料セル等周囲環境の間の熱緩和)およびω_2(試料内部の熱緩和)をω_1<ω<ω_2となるように制御する必要がある。特に試料セルは、パルス磁場特有の誘導電流発生によるノイズを極力抑えるため、FRPやPEEK等の非金属材料を用いた設計を行ってきた。また加熱方法としては、試料を細いワイヤーで空中につり下げたストレインゲージ(ヒーター)に貼り付けることで、試料とヒーター間の熱伝導を向上させると共に、周囲環境との熱伝導を適度にコントロールすることができる。これらを基に、昨年度はパルスマグネットに挿入可能なプロトタイプのインサートを設計し、ゼロ磁場において比熱シグナルの検出に成功した。 パルス磁場中での測定を可能にするためには、ω_2や全体の出力電圧を上げ、より高周波数領域まで検出可能にする必要がある。本年度は、試料と温度計やヒーター間の熱接触、被測定系(試料、ヒーター、温度計など)の熱容量を改善して測定システムのさらなる最適化を行い、ω〜1kHz,V_<ac>>0.1μVの範囲において比熱のシグナルが検出可能となった。これにより、現在標準的に使用されているパルスマグネット(パルス幅,〜数十ミリ秒)を用いた比熱測定に先鞭をつけることができた。パルス超強磁場中における比熱測定装置は現在国内に存在していないだけでなく世界的に見ても報告例は非常に僅かであり、強磁場先進国である日本においてこのような装置をいち早く開発することは物性研究をリードするうえで有意義であると共に重要である。
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