本研究の目的は、昨年と同様にサブミリ波を測定手段として絶縁体であるTmTeのユニバーサルな反強四極子秩序の発現機構を明らかにする事にあった。サブミリ波を利用したESR測定は磁場変化で共鳴条件を探すため、パルス強磁場との相性が非常に良い事で知られている。このため、神戸大学太田研究室のパルス磁場中ESR測定装置を使用し、ヘリウム冷凍機温度1.5KまでTmTeによる測定を数回行った。本物質は絶縁体であるため、パルス磁場下でも低温での発熱の心配はない。この絶縁体試料にサブミリ波を入射し、その透過光を観測するESR実験方法(透過型ESR)を用いて以下の事が分かった。(1) 常磁性相から四極子秩序転移付近にかけて連続して測定を行った結果、常磁性状態におけるシグナルには、大きな軌道角運動量に起因する十分幅広い信号が観測された。更に、(2) 低温における四極子秩序相でのESR信号を観測した結果、四極子秩序と思われる転移が見られたが、透過法では感度が足りないため、四極子秩序によるものかどうかを明確にすることができなかった。Tm^<2+>イオンと同じ希土類強相関化合物系のYb^<3+>化合物(重い電子系YbRh_2si_2の他、YbAIB_4など)では、キャビティーを用いたEsR信号が観測されているため、本測定感度が必ずしも十分でなかったと思われる。本物質は低温での磁化が増加するため、ESRのスピン強度も増大することが期待できる。このため、四極子反強磁性秩序、反強磁性秩序相内で、更に低温でのパルス磁場中ESR測定が必要であるとともに、キャビティーを利用した高感度測定の必要性もある事が分かった。
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