研究概要 |
平成19年度に作製した2軸ゴニオメータ付き低温用電子スピン共鳴装置を用いて, 主に量子スピン系における電子・スピン状態の詳細な解析に成功した。特に結晶構造の対称性が低い物質に関しては, X線構造解析と同等に結晶軸を同定するとともに, 単結晶の質も同時に評価することに成功した。本装置を利用して主に3つの研究成果が得られた。 1、二本足梯子系IPA-Cu (Cl_xBr_<1-x>)_3の磁気状態を詳細に調べることによって, これまでは液体ヘリウムで議論されていたボースグラス相が磁気状態においても実現することを世界で初めて明らかにした。さらにボースグラス相はx値を変えることによって現在までに3種類, 存在することも分かった。 2、透明強磁性体KNi_xZn_<1-x>F_3の電子スピン共鳴を行い, 可視光領域でも透明でありながら25K程度で強磁性体へと変化する様子を明らかにした。さらに2軸ゴニオメータを用いることによって, 1回の試料セッティングであらゆる方向に磁場を掛けることが可能となったため, 磁気異方性の情報を正確に知ることが出来た。 3、通常ではピコ秒程度の寿命を持つエキシトンが2量体化することでその寿命がほぼ無限大のエキシトンが実現するZn薄膜の電子スピン共鳴より, 内殻ホール状態と最外殻電子状態を同時に観測し, エキシトン状態が安定構造になっていることを確認した。本装置の開発によって, これまでは外部磁場と結晶軸との関係に大きな制限があったため, 分からなかった物性が, 2軸ゴニオメータを用いることにより, その制限が取り払われ, 新奇な物性現象の発見につながった。
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