研究概要 |
本研究では超流動状態にある量子流体の乱流(量子乱流)における素過程である量子渦の再結合とKeIvin波の減衰過程さらに量子渦と壁との結合について実験的に研究し,ミクロな視点から量子乱流の振る舞いを明らかにすることを所期の目的とした。平成19年度はまず直径230μmという細い円筒容器内の超流動ヘリウム3内に回転によって生成される1本の量子渦をNMRによって高精度に計測することに成功した。観測する液体ヘリウムの量は0.1μL程度と非常に少なく,当初は高精度測定を行うための最適化に多くの時間がかかると予想されたが,ノイズを抑えることなどにより初年度のうちに高精度測定に成功した。さらに最近では直径が10μm程度の渦芯が円筒容器中を軸方向に進んでいく様子をMRIの手法によって観測することに成功した。量子渦一本が回転によって円筒軸方向に移動することを直接的手法で観測したのは本研究が初めてだと考えられる。また,MRI当の手法によって量子渦の円筒軸方向の運動が回転に対して非常に敏感であることが分かった。これは「量子渦の端点と壁との結合」が比較的弱いことを示している。また,量子渦進行途中に回転加速をやめ回転速度を一定に保つと円筒容器内の一本の量子渦の端点が酔歩のように軸方向に動く(つまり渦の長さが揺らぐ)ことが観測された。このようなことは量子渦の自由エネルギーの観点から考えると起こり得ない状況のように考えられる(つまり臨界速度は一意に決まるべき)。しかし,もし量子渦の励起モードであるKelvin波が回転等によって励起されカスケード過程を通じて減衰するなら臨界速度に有限な幅ができ,量子渦の長さが揺らぐ可能性がある。本年度は初期の目的に関係すると考えられる多くの実験結果を得ることが出来た,次年度は定量的な解析によってモデルと実験結果の比較を行う予定である。
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