本年度は昨年度引き続き、細い円筒容器内の超流動ヘリウム3A層における一本の量子渦のダイナミクスをNMRによって時間分解を行い研究を行った。まず、渦が出来る前の円筒容器内の織目構造をMermin-Ho textureになるように制御し、その中に一本の量子渦の運動を1次元MRIの手法で観測した結果、まさに量子渦が円筒軸方向を移動しているさまと捕らえたことで、量子渦の運動に対してより確かな議論が出来るようになった。量子渦はその臨界角速度近傍で容器の回転を保つとその長さを伸縮する揺らぎを見せた。これは単純な自由エネルギーの大小の議論では説明できない現象である。また、量子渦の長さ力弐揺らぐということは量子渦が壁に接続する端点の摩擦が非常に小さいことを意味し、量子渦の端点は壁をほとんど摩擦無しに動くことを明らかにした。また、回転速度を臨海価格速度近傍で保ったときの量子渦の長さの揺らぎは非平衡開放系に特徴的な1/fのスペクトラム示している。これは単純に安定な位置にまっすぐな渦があるのではなく、回転によって渦にケルビン波が励起され、ケルビン波の減衰と回転によるエネルギー供給が平衡になっていることを意味する。つまり一本の渦による乱流の素過程のひとつであるケルビン波による減衰と量子渦の端点と壁との相互作用についての重要な情報を得ることが出来たと考えられる。また量子渦の再結合については回転速度にモジュレーションをかけるなどして探索したが、再結合を示すものは観測できなかった。これらの実験結果を基にし、今後の量子流体力学による理論研究の発展が期待される。
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