研究概要 |
α-ET2I3は圧力下でディラックコーン型のエネルギー分散をもつ。この系は電荷秩序相近傍に位置する電子間の相互作用の強い系である。本研究ではサイト間の相互作用を平均場的に導入し、解析的および数値的に電子状態の幾何学的な性質を調べた。その結果、ユニットセル内の4分子A,A',B、Cのうちで結晶学的にinversion symmetryで結ばれるAとA'以外の分子に相互作用を押しつけることによって、ディラックコーンの安定性を保証していることが明らかになった。 一方、1次元の局在スピンが電荷秩序系とカップルした系において、電子系の基底状態の磁気的なセクターに強い擬縮退が存在することを、密度行列繰りこみ群を用いて示した。この電荷秩序と磁性が絡むことによって得られた擬縮退を利用すると、外場(磁場)の印加に敏感な電子状態が期待できる。実際、フタロシアニン錯体TPP[FePc(CN)2]2は巨大な負の磁気抵抗を持つことが知られており、実験結果との関連も議論した。 そのほか、2次元ダイマーモット絶縁体において、電荷の誘電体としての自由度が量子ダイポールの形で記述できることを示した。具体的には、強結合極限から、ダイマー上に1電子しかいない状態への射影を行い、2次摂動を行うことにより有効モデルを導出し、厳密対角化によって、その基底状態の性質を詳しく解析した。量子ダイポールがスピン自由度と結合し、電子間相互作用の強い領域で、スピン液体状態が得られることなどを明らかにした。この系では、誘電応答の実験で、数十Kの温度領域でリラクサー特性が観測されており、不純物由来のリラクサーとは異なる新しい強相関効果に基づいた本質的不均一の可能性がある。今回の結果は、こうした異常応答の理解につながる有効モデルを導出したものである。
|