本研究はf電子系化合物において結晶場分裂と近藤温度が競合した結果、「重い電子系」と「価数揺動系」の境界に位置した物質がどのような振る舞いを示すかを明らかにすることを目的に行われた。価数揺動はCe、Eu、Yb等を含む化合物で古くから研究されてきたテーマであるが、主に近藤温度が高く結晶場の効果が無視できるような「価数揺動系」においてのみ議論されてきた。一方、近藤温度が低く結晶場の効果が重要と成る「重い電子系」や量子臨界点近傍の物質においては、逆に価数揺動の効果はほとんど無視されてきた。本研究では量子臨界点近傍のYbCu_<5-x>Al_x (x=1.5)や反強磁性オーダーを示すYbCu_3Al_2においても、価数揺動が起こっていることを試料作成と精密な物性測定によって明らかにした。しかもその価数揺動の振る舞いは、これまで価数揺動系において適用されてきた不純物アンダーソン模型によって大まかに記述できることも判明した。この成果の一部は論文にて発表した。また詳しい成果について現在論文投稿準備中である。この結果は、今後、量子臨界点の物性の異常性を議論するうえで重要な指針を与えるものと考えられる。また、本研究により、熱電材料として注目されているFeGa_3について、単結晶育成と磁化率測定や光電子分光測定を行い、その結果、0.3eVの狭いバンドギャップを持つことを始めて直接観測した。また、非磁性半導体から強磁性金属へ転移するFeSi_<1-x>Ge_xのX線分光測定結果が、古典的バンド措像によって説明可能であること等が見出された。これらの結果は論文に発表された。
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