本研究の目的は時間反転対称性の破れた、あるいは結晶構造に空間反転対称性を持たなウラン化合物の純良単結晶育成を行い、5f電子系のフェルミ面の性質を明らかにする事である。今年度は、昨年度ドハース・ファンアルフェン(dHvA)効果測定の角度依存性に成功したUCu_2Si_2について理論家の協力のもと、スピン及び軌道を分極したバンド計算との比較研究を行い、これまで理論的に取り扱いが難しいと考えられてきた強磁性状態のフェルミ面のトポロジーとバンド構造について調べ、論文にまとめた(投稿中)。また、強磁性超伝導体UCoGeについても純良単結晶育成をフランス原子力庁(CEA-Grenoble)との共同研究で行い、dHvA効果測定が可能なレベルの純良な結晶を得る事に成功した。この単結晶を用いた詳細な超伝導上部臨界磁場H_<c2>の角度依存性の測定を行い、極めて異方的なH_<c2>の振る舞いを発見するとともに、磁化困難軸であるb-軸方向において、磁場印加とともにH_<c2>が増強する異常を発見するに至った。この結果は、先に発見されていた強磁性超伝導体URhGeにおいても観測されるリエントラントな超伝導相の発現に類似しており、これらの超伝導のメカニズム解明にとって重要な結果である。また、今後dHvA実験が可能な試料育成の成功は、超伝導発現に関わる伝導電子の状態を明らかにする上で大きな進展である。次のターゲットであるUCoAlについては、アーク炉内に残留する酸素を十分除去する事により、dHvA効果実験が可能な単結晶を安定して得られる条件をほぼ確立した。第3のターゲットとしていたUCoについては、育成した結晶について基礎物性評価を行い、初期に報告されていた超伝導転移が不純物相によるものである可能性を示す結果を得た。一方で微小ながら単結晶を得る事に成功し、詳細な構造解析が可能な段階にこぎつける事に成功した。
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