代数幾何と表現論の手法を用いて有限自由度を持つ可積分力学系の研究を行い、今年度は以下の成果を得た: 1.トロピカル幾何の超離散可積分系の解析への応用:複素代数曲線上とトロピカル曲線上でそれぞれ定義されているAbe1積分の間の関係を詳しく調べ、超楕円とは限らないトロピカル曲線のトロピカルテータ関数が満たすFayの三項間恒等式を導入した。この恒等式を一般化された超離散戸田格子方程式の一般解の構成に応用し、一般解に関する予想を提出した。この研究をさらに発展させるため、2009年2月から3月にかけてLoughborough大学(イギリス)に滞在し、同大学のVeselov教授と活発な議論を行った。 2.クラスター代数の差分方程式の解析への応用:量子可解模型を解く際、対称性を記述するLie環毎にT-system、Y-systemと呼ばれる差分方程式が現れる。「この差分方程式の一般解はある境界条件の下で周期的になる」という予想が1990年代に提出されていた。一方、A、D、E型のLie環の場合に、箙の表現論で導入されたクラスター代数の生成関係式の中にこれらの差分方程式が含まれていることが指摘されていた。この視点を掘り下げ、さらにクラスター圏の手法を用いてB、G、F型を含む全ての有限時限単純Lie環の場合のT、Y-systemに対して上記の予想を証明した。
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